水曜日

いつもは脱衣所で昭和歌謡とか純烈(たぶん)とかが流れている、行きつけの銭湯。そのスピーカーが今日は浴室に移動していて、なぜかインストのハワイアンが流れていた。

天然リバーブの深くかかった陽気なBGMに耳を傾けてお湯に浸かっていると、全く南国感の無い銭湯の内装とのミスマッチがなんだかこの世のものとは思えず、段々と、くたびれたオジサンだけが辿り着く楽園に迷い込んでしまったのではないか、と錯覚してくる。いや、錯覚ではなく、実際に楽園なのだ。

何十年も迷い込んだまま抜け出せないのであろう、この異世界に慣れた様子で風呂に入っているお爺さんも何人かいる。このまま自分も帰れなくなってしまったら、どうしよう。それはそれで幸せだろうか……。

風呂から上がると、銭湯のご主人が掃除をしていた。BGMが良かった旨を伝えようと思ったら、なぜかアガって「ハワイわンも良いですね」と噛んでしまい、恥ずかしさで現実にキュッと引き戻された。

明日も仕事だ。